太田忠徳先生(元警視庁主席師範)は、21歳の時に昭和の剣聖と称えられた持田盛二先生(当時年齢は70代後半)に初めて稽古をつけてもらったのだそうだ。稽古をつけてもらったのはこの時の1回だけで、「グーッ」と攻められると何もできず、もう目をつぶってかかり稽古をお願いするしかなかったと話された。警視庁の錚々たる先輩(先生)たちでさえ攻められて何もできず踊っているような状態だったというからどれ程強かったかは推して知るべしだろう。
以前のブログに書いたが、中山博道先生は剣道を正しく修行した者なら80歳までは若者に負けることはないと語った。長年かけて身につけた竹刀を使って対応する力は体力の衰えを補うと体験を通して確信していたのだった。剣道は上を目指すからいつまでもできるし、剣道人生で一番強かったのは今と言えると太田先生は話(8月27日、コンプライアンス講習会、とちぎ健康の森)された。剣道人口の減少、剣道離れを危惧する声が高まっているが、高齢になってもこういうことができると分かれば剣道に魅力を感じる子どもたちが増えるかもしれない。
今年の夏の気象は異常としか言いようがないが、連日の猛暑の中行われた学生の試合、高齢者の合宿稽古で感じたことは剣道人口の減少は剣道の魅力そのものが失われたからではないということだった。4年ぶりに開催された栃木県学生剣道大会(7月23日、宇都宮大学)には自治医科大学、帝京大学、獨協医科大学、白鷗大学、宇都宮大学が参加した。学生の試合ぶりは実に立派で多くの子どもたちに見せたいと思った。剣道はこんなにも格好がいいのかと改めて感じたのである。
水金剣友会「なつ合宿」(8月23日・24日、ニューサンピア栃木)では、埼玉県、群馬県、茨城県、横須賀市、栃木県など110数名の参加者が行った回り稽古は壮観だった。70歳以上が80名、そのうち80歳以上が13名(最高齢は85歳)だったが、剣道だから見られた光景なのかもしれない。背筋を伸ばして堂々と立ち会う高齢者の姿は剣道を楽しむ姿そのもののように感じた。手前みそかもしれないが、高齢者の剣道も実に格好がよかったのである。 (2023.8.30)