持田盛二範士(10段、1974年89歳にて死没)は、強さと気品を兼ね備え昭和の剣聖と称された剣道家である。持田範士の遺訓は今も多くの剣道人の励みとなり目標になっていることだろう。
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・私は剣道の基礎を体で覚えるのに50年かかった。
・私の剣道は50を過ぎてから本当の修行に入った。心で剣道しようとしたからである。
・60歳になると足腰が弱くなる。この弱さを補うのは心である。心を働かして弱点を強くするように努めた。
・70歳になると身体全体が弱くなる。こんどは心を動かさない修行をした。心が動かなくなれば相手の心がこちらの鏡に映ってくる。心を静かに動かさないよう努めた。
・80歳になると心は動かなくなった。だが時々雑念が入る。心の中に雑念を入れないように修行している。
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学生時代で基礎は習得したと思っている人は少なくないだろう。私もそのくらいに考えていた。20年程前に現在ご指導をいただいている先生の道場に入門し稽古しているが、今でも姿勢や構え、基本の打ちが十分にできていると思えないのである。持田先生のような人が50年もかかったのであればそうであっても当然だろう。
有子(孔子の弟子)は「君子は本(もと)を務(つと)む。本立ちて道(みち)生(しょう)ず(君子は基本的なことに力を入れる。基本がしっかりできるようになれば自ずと道が開ける)」と言った。父母や年長者を大切にすることを説いた言葉だったが、万事に通じることだろう。基本は容易に身につくものではない。剣道は剣道修錬の心構え(全剣連)に記されているように正しく真剣に学ばなくてはならない。 (2019.11.1)