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本来の姿を取り戻す

「みんなの心に輝く学校をめざして」取り組んだ学校経営、「生き生きとした学校生活のために」取り組んだ生徒指導で感じた課題の解消を念頭に置いて教育問題などを考えます。

◇部活動の留意事項

 平成20年4月、西中学校は以下のような留意事項を踏まえ指導に当たることにした。地域にもそのことをお知らせした。(約7000戸に文書配布)

 

 − 地域の皆様 −

 本校の部活動は、毎年立派な成績を収めるなど輝かしい実績を残していますが、今後以下のような「留意事項」を踏まえて指導に当たり、皆様から今まで以上にご声援をいただけるよう一層の発展を図っていく所存です。(平成20年6月1日 足利市立西中学校長)


◆技術よりも礼儀作法
 新入部員に最初に教えることとして上級生に指示したことは礼儀作法だった。素振りや打ち込みはその後にやることだった。礼儀作法は、人間関係を発展させるばかりでなく物事を成就させる源、人としての生き方の基本である。これができないようであれば、何をやっても成功させることはできない。技術を指導することよりも礼儀作法の指導を優先すべきである。


◆人間関係を育む
 部活動には全く関係がない下級生だけに制限を加えるような決まりに気づくことがある。人間関係を妨げるような決まりは早急に改善すべきである。
 溺愛されて育ってきている生徒がいるが、そういう生徒は一つの例外もなくわがままで、注意を素直に聞けない。また、思いやりや感謝の気持ちに欠けるようだ。したがって、人間関係がうまくいかない。部活動は人間関係を育む場でなければならない。


◆選手以外も大切
 選手のみを相手にしてはならない。プロの世界なら分からぬでもないが、部活動は教育活動である。教育は一人一人の成長を期して行うものなので、選手以外は鍛えない、眼中にないようであってはならない。部員の月謝で自分の生活ができていると考えたら選手以外がやめていくような指導は絶対にできないはずだ。


◆強豪より学ぶ
 ずい分前のことだが、練習を一生懸命にやっているのに勝てなくて悩んでいた生徒がいた。この生徒は負けない剣道ばかりをやっていたのである。打つ機会なのに打たないのだから勝てない。そこで、他校のある生徒の試合を見るよう指示した。生徒は何試合もずっと見続けていた。それからこの生徒の試合ぶりは別人のように変わっていった。そして、誰もが称賛し注目する剣風が培われた。
 明治大学野球部の島岡監督(故人、野球ファンなら知らない人がいないくらいの有名人で、中日や阪神で監督を務めた星野監督など多くの野球人を育てた。信念をもった指導ぶりは聞くものをうならせてしまう)は、「弱点を克服すれば、長所が一層伸びる」と話していた。バッティングは良いが、脚力に難点のある学生の脚力を鍛えたら守備範囲も広がり、守備が良くなった。守備が良くなると、自信がつくのかバッティングが益々良くなったとのことである。
 強豪と言われる学校の指導者や部員からは学ぶことがとても多い。そこには確固たる理念があるものだ。「上には教われ下には学べ」、謙虚に学ぶ姿勢をもち続けたいものである。


◆自信をつけさせる
 部活動で生徒に自信をつけさせたいものだ。自信をもって生きる生徒とそうでないのでは日々の活力に明らかな差が出てくる。勝っても負けても自分の力を発揮できれば自信がつく。力を発揮するために重要なことは、試合での緊張は楽しむようにする。気持ちを整えて試合に臨ませる。気持ちを整えるには用具の点検や掃除等が効果的だ。そして、強気で立ち向かうことが最も大切である。


◆無理をしない
 孟子の譬え話にこのような話がある。自分の畑の苗が伸びていないのを心配して、早く伸ばそうと引っ張った人がいた。一日中苗を引っ張り、疲れ果てて帰宅して、「今日は疲れたよ。私は苗の成長を助けてやったからね。」と話したので、家族が走って行き苗を確かめるとみなしおれてしまっていた。世の中には、子どもをそうやって成長させようとする人が少なくない。無理に成長(上達)させようとしても効果はなく、かえって害を与えてしまうことになる。


◆強くなるために
 「勝ちに不思議な勝ちあり」、「負けに不思議な負けなし」と言われるが、負けた時程勉強になることはない。負けの反省を生かした着実な活動が大切だ。試合は誰だって勝ちたい。負けたくないのは分かるが、負けを極端に恐れたり、許さない雰囲気を作り出すと、実力を発揮できなくなる。負けることによって強くなっていくという視点は大切だろう。


◆選手の素質
 選手の素質として、体格や運動能力を挙げる人は多いが、体格や運動能力はほんの一部分に過ぎない。重要なのは精神面である。本校にも在職した卓球の監督は、体格や運動能力に劣る生徒も区別なく指導し、豊富な練習で各種大会に大活躍させた。異動した先々の学校で、県優勝をさせた偉業は真似のできることではない。彼が育てた選手を見れば、体格や運動能力は素質の一部分に過ぎないことを誰もが認めざるを得ないだろう。


◆精神を鍛える
 夏であれば涼しい時間帯に、冬であれば寒さのやわらぐ時間帯に練習した方が効果はあると思う。しかし、昔から暑い時期なら、その最も暑い時に練習する土用稽古、寒い時期ならば、最も寒い時に行う寒稽古が続けられている。効果の上がらないこのような時になぜ行うかといえば、精神を鍛えるにはとてもよいからだ。そのような練習もあってよいだろう。


◆時には後ろを振り向くことも
 「人の生きる道は曲がっている。曲がりながら進むのが真っ直ぐで正しい道なのだ。曲がっている道から見れば、真っ直ぐな道こそ曲がっている」と荘子は語っている。前ばかり向いて強引に突っ走ってばかりいると、後ろを振り向いたら何人もの生徒が泣いていたということにもなりかねない。強くすることよりも好きにすることが重要である。時には生徒が大人であったら、自分の学校の生徒でなかったら、こんな叱り方ができるかと考えることも大切だろう。


◆感謝の心
 オリンピックの水泳平泳ぎで金メダルを取った人が、ある有名なスケート選手についてオリンピックでメダルを取れないと話した。事実取れなかった。世界選手権等、各種の大会で大活躍していたが、本番で惨敗してしまった。
 取れない理由に挙げたのは感謝の心だった。世界的な選手ともなると、その選手用の競技服を作る等、スポーツメーカーが協力してくれたりするそうだ。作ってくれた服を、着ては脱ぎ捨て、着ては脱ぎ捨て、不具合を言い立てる姿を目の当たりにし、作った人に対する配慮や感謝の気持ちが全く感じられなかったとのことだった。その選手は次のオリンピックで見事にメダルを獲得した。4年間にいろんな人の教えを受けたりして感謝の心が培われたのであろう。
 それまで私は、感謝の心について部員に話したことがほとんどなかったが、その後しばしば話すようにした。大事なことが抜けていたと感じたからだった。「自分がこうして試合ができるのは、成長できたのは、先輩や後輩、道場の先生、練習試合等で胸を貸してくれた他校の仲間達、そして、何よりも家族の応援や協力のお陰である」と。そんな指導をするようになってから、やっと県大会で優勝することができた。


◆強くなった時
 強くなると、練習試合を度々申し込まれることになるが、全部受けていると、生徒が疲れ切ってしまう。燃え尽き症候群と言われるような状態になってしまう。いかに間引いていくかが大切である。弱かった時にお願いして受けてもらっていたので、受けざるを得ない状況もあるが、そこを何とかしなければならない。「一生懸命にやれば好きになる。好きになれば長く続く。長く続けば本物になる」が、練習過多の状態が続けば、一生懸命の気持ちは失われ、逆に嫌いにしてしまう。長く続けられるようにしていかなければならない。


◆敗者に敬意を
 旅順攻略戦で指揮をとった乃木陸軍大将は、敗軍の敵将ステッセル司令官に、帯剣をさせて写真を撮らせた。後々まで恥をさらすような写真は敵将に対し無礼である。そんなことは日本の武士道が許さないと当初写真撮影に応じなかったが、外国人記者団の強い要望に渋々応じたとのことである。
 柔道の国際大会で、相手をぶん投げ体にのった状態でガッツポーズをした選手がいたが、外国選手ならともかく日本人はやってはいけない。敗者にも敬意をはらいたいものだ。


◆部活動には人生(哲学)が詰まっている
 入部したからには上手になりたい、強くなりたいと誰もが一番に考えていると思ったら、そうでもない生徒がいた。当初はそうでも途中から変わってしまったのかもしれないし、最初からそうだったのかもしれない。
 友達をつくりたい、友達と楽しい時間を過ごしたい、今まで続けてきたのでもっと上手になりたい、選手になりたい、やってみたかった、兄弟や父母に勧められた、心身を鍛えたい等、部活動入部の動機はそれぞれである。指導者としては、こういった動機や部活動への期待を把握しておく必要はあるだろう。
 学校生活で最も大切なのは学習成績であって部活動には大した意味(意義)を感じていない人もいると思うが、部活動の思い出作文には、「信頼できる友達ができた。礼儀や作法、言葉遣いを学べた。みんなに励まされ続けることができた。友達や先生に感謝していること」等の記述を目にすることも多い。そして、「嫌になっても逃げ出したら何も得られない。喜びは苦難を乗り越えて得られる。己に勝ってこそ相手にも勝てる。自分に自信がもてなくては力を発揮できない」といったこと等を体験からつかみ取っていることも確かなことだろう。


◆地域活動に協力を
 地域活動(育成会活動等)は、これから益々脚光をあびていくことだろう。各種の地域活動が盛んになり、青少年が健全に育成されるよう協力したいものである。地域の体育祭等の大行事はできるかぎり部活動を中止したいものだ。


◆部活動と学習の両立は可能
 部活動が忙しく学習する時間がとれない,睡眠時間に影響が出てくるといった声を時々耳にしてきたが、部活動と学習は十分両立が可能である。各部の選手として大活躍し希望の高校へ入った生徒はたくさんいる。成績向上のために部活動を辞めた生徒が何人もいるが、成績が向上した生徒を見たことがない。心身を鍛え生き生きとしている生徒の方が学ぶ意欲・気力に勝るのは確かなことである。足工大の小林敏孝教授(足工大睡眠科学センター長)は、頭を良くしたいなら運動をさせなさいと言っている。これは科学的に証明されていると語った。


◆治療を優先
 治療させたいが退部させられると困るのでできない。治療のため部活動を休ませてほしいといった声も耳にすることがある。学校から治療するようにと連絡のあった目・鼻・歯などは,できるだけ1学期中に完治させたいものだ。長期休業中に治療しようと思っても,急に練習試合が組まれたりして結局難しい。目や歯などを完治させた方が熱も入るだろう。


◆家族旅行
 子どもが中学校に入学したら家族旅行も行けなくなってしまった。気兼ねなく安心して家族旅行ができるようにしてほしいという声も耳にする。大会前に家族旅行なんて聞いたら、今まで指導してきた者としては気分が悪くなることもあるが、それ以外なら好きにさせてやることも必要だろう。親子の断絶などと言われる時代なればこそ配慮していきたいことである。


◆部活動の原点(勝利至上主義を廃す)
 教職について以来20年以上も剣道部だけを指導してきたが、剣道部のない学校に赴任しバスケット部の顧問をしたことがある。素人が指導するのでとても大変だった。しかし、バスケットの顧問になったことに感謝できる日が間もなく訪れた。
 勝たせるために厳しい指導を続けてきたことを大いに反省させられたのだ。地区大会での一勝に涙を流して喜び自信をつけていく生徒達、どうしたらもっと上手になれるのか、強くなれるのかと瞳を輝かせて話し合う生徒達に、忘れていた部活動の原点を見た思いがした。そして、自分の役割はバスケット大好き人間を作ること、大好き人間の輪を広げることと感じたのだった。勝つことは目標であって目的ではないということを忘れずにいたいものである。


◆素人監督でも勝てる
 バスケット部の監督に、「先生、来年はバスケットの先生が来るんですか?」と聞いた部員がいた。この監督は相当なショックを受けたようだ。「バスケットの顧問など引き受けたばっかりに…」との思いをしたことだろう。聞いた部員に悪気はなさそうで、取り立てて騒ぐことでもなかったのかもしれないが、そのままにしておくことは部員のためにもならないと考え、次のような文書を保護者に配布した。

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 バスケット専門の職員が来年来てくれれば私たちもありがたいのですが、その可能性はかなり低いと思います。バスケット専門の顧問でないと上達しない、勝てないということならば、今後本校は専門家が来るまで絶対に勝てないということになってしまいます。

 私は剣道をやっていますが、中学も高校も素人監督で、ほとんど稽古をつけてもらえなかったのですが、高校の県大会で優勝しました。本人の努力である程度力をつけることは可能と思います。バスケット専門の顧問でなければとの気持ちでは、勝てる試合も勝てなくしてしまうのではないかと思います。

 本校の部活動は大規模校のように種類を多くすることができません。バスケットをやりたがっている男子が多数いるのにやらせてやることができません。職員が少なすぎるのです。そして、職員の仕事は大規模校に比べて非常に多いのです。校務分掌は大規模校なら1つか2つで済むところをその数倍ももっています。したがって、練習を見てやりたくもできない状況があるのです。生徒にとっても職員にとっても不幸なことと思いす。

 毎年4月になると、転勤でいなくなった部の顧問を転勤して来た職員にお願いします。なぜお願いなのかは命令することができないからです。部活動の主たる活動は、勤務時間外や日曜・祝日などの勤務を要しない日や時間であるからです。顧問のなり手がいなければ、即廃部を検討しなくてはならない現状です。私たちがバスケット顧問になったのも部員がいるのに廃部では気の毒と思ったからでした。

 自尊心は誰にもあります。私も剣道の世界であれば黙っていてもそれなりに敬意をはらってくれる人がいます。素人というだけで軽んぜられ、そして、それを受け入れるような卑屈な生き方はできません。自尊心を傷つけるようなことでは顧問をお願いしても断られてしまう結果を招きます。

 剣道を学ぶために学区外通学をしている生徒を今までにたくさん見てきました。こういう選択の失敗を私は知りません。成功例ばかりです。遠距離なので家族の協力がなければできないのですが、検討の余地はあるでしょう。しかしながら、そのような対応ができる家庭は少ないと思います。そこで、近隣の学校同士が協力し合って部活動を行えれば、家族の負担も少なく十分な活動をさせてやれるのではないかと思っています。早くそういう体制を整えたいものです。

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 その後、そのような言動は一切なく勝つこともできた。1年生大会で優勝し県大会にも出場した。バスケット部が創設されて38年間、一度も県大会に行ったことがなかった学校だったが。記録を調べてみると、各種大会で入賞したのは38年間で3位が2回だった。素人監督だって勝つことができる。帝京高校サッカー部の小沼監督も、明治大学の島岡監督も、競技経験のない素人監督だった。


◆誇りをもって
 野球部監督に、保護者が失礼な言葉を浴びせたとの報告を聞いた私は、今後そのような言動があった時には試合を放棄して帰校しろと監督に指示した。卑屈になって、バカにされてまでやる必要はない。これは職務命令であるとつけ加えた。そして、副顧問に野球部の全保護者に伝えさせた。以後失礼な言動は一切なくなった。


◆顧問への配慮
 顧問のやる気が失われるのは、部員に見下されてしまったり、指導の批判をされたりすることだろう。剣道7段の指導員が部員のいる前で顧問を軽視した発言をしたことがあった。足らないところを補助してやるべきで、けなしてしまうとやりたくないという気持ちになってしまう。学校の事情で、好きでもないのに、専門でもないのに引き受けているという事情も理解し配慮していくことが必要だろう。 (2011.9.5)