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本来の姿を取り戻す

「みんなの心に輝く学校をめざして」取り組んだ学校経営、「生き生きとした学校生活のために」取り組んだ生徒指導で感じた課題の解消を念頭に置いて教育問題などを考えます。

◇孝行猿物語

 長野県の長谷村に伝わる民話がある。長谷村に行ったことはないのだが、南アルプスの山に囲まれ、標高は千メートルを越えている。人口は2000人程で、現在は伊那市になっている。

 長谷村の柏木という集落に、勘助という腕のいい猟師が住んでいた。冬も近いある日、勘助は火縄銃を手に猟に出た。しかし、その日は不猟で、兎一羽も捕れなかった。あきらめて帰ろうとした時、木の上に大きな猿が一匹居眠りをしているのが見えた。気が進まなかったが、手ぶらで帰るよりはいいと思い、この猿を仕留めた。帰る山道で、悲しげな猿の声が聞こえたが、あまり気にも留めず家路を急いだ。家に戻って、仕留めた猿の両手両足を縛って囲炉裏端に吊し、夕食もそこそこに眠りについた。

 夜中に物音で勘助は目を覚ました。何事かと部屋の隙間から覗いて見ると、どこから入ってきたのか、三匹の子猿が、かわるがわる囲炉裏の火で手をあぶっては吊された親猿にとりつき、温めた手を傷口に当て、傷口を温め続けていた。

 「ああ! 昨日帰りに聞いた猿の鳴き声は、この子猿たちだったのか」と勘助は悔やんだ。親猿を生き返らせようと、一生懸命の子猿たちが哀れでならなかった。夜明けとともに子猿たちは去って行った。

 この光景に深く心を打たれた勘助は、朝、親猿を背負って裏山に登り、大きな松の木の根元に手厚く葬り、祠を建てた。その後猟師をやめ、頭を剃ってお坊さんとなり諸国行脚の旅に出た。

 この話は、江戸時代に書かれた本に紹介されたということだが、修身の教科書(尋常小学校)にも採用された。村にある長谷小学校では、「孝行猿の日」(旧暦10月10日)の前後に、歌や踊り、劇を披露するなどして孝行猿物語を受け継いでいる。

 猿だって親を思う心は人に劣らないということを教えてくれる話である。虐待や殺人など、家庭内の悲惨な事件がしばしば報じられている。子が親を愛し、親が子を慈しむ話を生徒にどんどん紹介したいものだ。  (2013.1.13)