「分かる授業を展開する」ということに対して異を唱える教師はいない。教師なら分かる授業を展開したいし、また、当然の責務でもある。しかし、言うのは簡単だが、本当に全生徒に分かる授業を展開できるのだろうか。既習内容を十分に理解している生徒に対してなら日々分かる授業も展開できるだろうが、そうでない場合には難しいのではないかと思う。
教科書は新年度になると多くが新しくなり、旧教科書は使わない。1年生の内容が理解できていなくても2年生の内容に入る。このような繰り返しが小学校より続いている。七五三なる言葉を以前しばしば耳にした。小学校の内容を理解している小学生は7割、中学校の内容を理解している中学生は5割、高校の内容を理解している高校生は3割という意味だった。人には誰にも得手不得手があり、また、発育発達に個人差がある。全員が同じではない。分かっていない生徒がいてもどんどん先へ進まざるを得ない状況は、生徒だけでなく教師にとってもつらい現実で、早急に改善されなければならない。そのためには、教師の声が教育行政に反映されていくことが大切だろう。既習内容を理解していない生徒も大切な生徒である。
習熟度別授業、ティーム・ティーチング(TT)、選択制授業、35人学級の導入は、今まで分かる授業の展開に貢献してきたが、それだけでは不十分である。例えば数学なら、3年間使える教科書で、それぞれの力に合わせて取り組めるような構成になっているとか、小学校の内容も振り返って学習できる小冊子のようなものが用意されているといった工夫がされたら随分違ってくるのではないかと思う。他教科においてもそれぞれ工夫をこらし最低限知っていてほしい内容を定着させたら学習の成果は相当に上がることだろう。
授業は誰だって分かりたいはずである。家庭学習だってやる必要がないと考えている人はいないと思う。学びそびれてしまった生徒も分かるようにする。この取り組みは重要で、教師としての真骨頂が発揮されると考えている。家族団らんの時間に、いそいそと塾に出かける状況も相当に改善できるのではなかろうか。 (2012.7.23)