生徒指導主事だった頃、各種の問題が発生する度に、どうしてこういうことが起きるのかと考え続けていた。そして、たどりついた結論は、生きる力がついていないということだった。生きる力という観点で考えると、問題の本質が見えるようになり、保護者に納得してもらえる説明もできた。自分でもうまい言葉を思いついたと思っていたら、平成8年7月の中教審(中央教育審議会)第一次答申に、現行指導要領の理念として華々しく登場した。生きる力は次のように説明された。
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・自ら課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する資質や能力 ・自らを律しつつ、他人とともに協調し、他人を思いやる心や感動する心などの豊かな人間性 ・たくましく生きるための健康や体力
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この説明には不満だった。やさしいことを難しく言い換えていると感じたからだ。生きていくために必要な力とは何かと考えたら、「人間関係を築く力、礼儀や作法、障害を乗り越える力、善悪の判断力、ねばり強さ、失敗を恐れない態度、…」といった具体的な文言が浮かび、しっかりと受け止めることができるだろう。
朝のラジオ番組を何千日も担当した山谷親平(故人、山谷えり子国会議員の父)は、「抽象論を好む人は文化程度が低い」と何度もラジオで話していたが、学校現場は具体的に考え実践していくことが大切だ。そうしなければ成果も得られないと思う。平成24年完全実施の新指導要領は、生きる力を育むという理念を継承する。いじめや不登校、青少年の引き起こす事件などの現状は、生きる力が育まれていない根拠となるもので継承は当然だろう。 (2012.3.1)