最近は少ないのだが、「姿格好ではないよ、大切なのは心だよ」との言葉を何度も耳にした。そういう考えは正しい面もあるが、それがすべてではないし、形を軽視する考えが社会に醸成されるのを見過ごすことはできない。
葬式に真っ赤な服を着て行って、私には満々たる弔意があると言っても理解されることではないだろう。結婚式に黒ネクタイで出席はできない。サンダル履きでは常識を疑われる。形の軽視は日本の文化を否定することになる。茶道も華道も、およそ道がつくものはすべて廃(すた)れることになるだろう。
剣道を志す人は、皆剣道形を稽古する。剣道形は先人達の命を賭けた修行の中から生まれたものである。形の稽古をしながら何を学ぶかというと、その心を学んでいる。今は昔のように命のやりとりをすることはできない。
ズボンを下げて尻が見えるように履いたり、服をはだけて着るような人を大勢見かけるが、大切なのは心だよと言い切ることは難しいと思う。「襟(えり)を正す」との言葉が死語となるような国にはしたくないものだ。 (2012.1.10)