以下の資料は少ない事例(25例程)からではあったが、家庭教育という観点でまとめたものである。資料の作成では足利市のスーパーバイザーであった足利工業大学の先生にご指導をいただいた。この通りにやれば間違いなく不登校になると資料を評価していただいた。時間はかかったが作成してよかったという気持ちになった。
不登校は、学校、家庭、社会環境が複雑に絡み合って起こるもので家庭に全責任があると考えていた訳ではない。不登校にしようと育てている人などいないのに「子どもを不登校にするには」としたのは資料を印象づけたいと思ったからだった。
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「子どもを不登校にするには」
◆わがままな子どもにする
わがままな子どもにするのは簡単です。欲しい物は何でも買ってやるなど、子どもの要求をどんどん聞き入れるのです。聞き入れれば入れるほど、わがままになります。
わがままな生活を続けていけば、親をうまく操縦する技術が身につきます。成績を向上させたい、あるいは、学校へ行ってほしい、といった親の気持を逆手にとって要求を出すようになります。また、責任転嫁の行動様式も身につきます。親は子どもに振りまわされる毎日といった具合になります。しかし、外では通用しません。人間関係を上手に結べなくなるのも当然です。学校は、こういう子にとってストレスのたまるところでしょう。したがって、わがままな子どもは、不登校をするようになっていくのです。
◆子どもを(徹底して)かわいがる
子どもはとにかくかわいがり、世話をするのです。かわいくて、いつまでも添い寝がやめられない母親がいます。中学生になっても続いている例がありました。添い寝をすることで、母子に一体感が生まれます。自立を遅らせることになるのです。トイレにも一人で行けなくなってしまいます。
また、かわいくて叱ることができないし、泣かせたくないので、宿題など、子どもがやるべきことを、親が全部やってしまうことも起きます。
かわいい子どもですし、心配なのは分かりますが、限度を越えた世話は問題です。毎日車で送迎をしたり、体温計を持ち歩かせたり、「転んだ子を抱き起こすな」との先人の教えは、忘れられているようです。
人間が成長するためには、その時その時で、自分でやらなければならないことがあります。世話のし過ぎはそれを奪うことにもなり、ひ弱で神経質な子にしてしまいます。他人と満足に話もできない人間関係を上手に結べない子になっていきます。周囲の子が、とても大きな存在として映るようになり、自信を失っていきます。そして、不登校になっていくのです。
◆意のままに育てる
子どもを立派に成長させたいと思うのは誰しも同じです。そのために一生懸命やっていることが、意図した方向とは違う方向に子どもを追いやってしまうことがあります。子どもの心が見えず、親の価値観を強要してしまうからかもしれません。
間違いは誰にもあるのに、厳しく叱ってばかりいれば、極度に間違いを恐れることになるし、成績重視の姿勢を貫けば、結果が悪いと自信を失ってしまいます。
親の敷いたレールに乗せて、子どもを育てようとすれば、当然、無理が出てきます。親に反発するような子どもであればよいのですが、あまり反発しない子であったり、反発を許さない雰囲気があれば、子どもは混乱してきます。
親の顔色をうかがってばかりいて、親の指示したことだけする、親の喜ぶことだけするといった具合で、自己選択、自己判断の機会が失われていきます。自分本来の生き方ではないので、疲れてしまうでしょう。ですから、子どもを意のままに育てていけば不登校にしてしまいます。
◆やさしい(だけの)父親になる
「地震、雷、火事、親父」と言われた厳格な父親は減少しているようです。どうしてなのかは分かりませんが、ただ威張っていればよかった時代が終わっているのは確かなようです。
子どもの言い分は何でも信じて疑わない、そして、友達のような関係を追い求める姿勢は、子どもの自立を遅らせることになります。いろいろなものの見方・考え方を示し、独りよがりな部分を改めさせたり、わがままを許さない厳しい姿勢も必要です。何でも話を聞いてもらい、叱られた経験もほとんどない子どもにとって、外の世界での注意や叱責には、堪え難い屈辱感を味わうことにもなるでしょう。順応できなくなっていきます。ですから、父親がやさしく接しているだけの子どもは、不登校をすることになります。
子どもは、やさしさだけでなく、厳しさもある頼りがいのある父親を求めているのです。
◆父親が子育てにかかわらない
子育ては母親の仕事と考えているのかもしれませんし、厳しい仕事に耐え、一家を養っているのだから当然と考えているのかもしれません。子どもに、問題が生じていても、帰宅したら、一杯飲んで寝てしまう。こういう父親の態度があれば、家庭は乱れてきます。そして、「おまえのしつけが悪い」と怒鳴りつけ、暴力を振るえば、母親は、もう相談できなくなります。母親を追い詰めてしまいます。
子どもは好き勝手なことをし出します。母親に暴力を振るうことだって起きます。基本的生活習慣は乱れ、登校時間になっても起きません。ですから、子育てに父親がかかわらなければ、子どもは不登校になるのです。
※家庭に必要なバランス
河合隼雄前文化庁長官(故人)は、家庭には父性(切るという側面)と母性(包むという側面)の両方が機能しなければならないと言っています。良いも悪いも包み込む優しい面が母性であり、それを許さないような厳しい面が父性です。このバランスはどこの家庭にも必要です。
「厳父、慈母」なる言葉は、この父性原理、母性原理が機能する家庭を示唆したものと思います。バランスが崩れると、いろいろな問題が生じることになります。不登校も、この観点で考えることができます。 (2011.10.25)